語られない事さえ語る言葉の魅力 『ようこそシネマハウスへ!』

 なんて素敵な思いつきだろう!
 いや、あるいは、とんでもなくバカげた夢想のたぐいなのかもしれない。
 まあ、どちらにいろ紙切れ一枚で舞い込んできた幸運・・・
 遠い親戚の遺産という名の巨額のアブク銭・・・・の使い道としては、ちょっといいアイデアには違いないな。
 映画を作る! 映画を作る! 映画を作る!   ―――プロローグより

 今からもっとも日本語で描かれたゲームの中でもっとも、綺麗で、洒落ていて、面白くて、感動できたゲームについて語らせていただきたい。
こと、使われている“言葉の力”という点で、これほどの魅力を感じさせたゲームは他にない。
ゲームの歴史どころか、美少女ゲームの歴史の中ですら埋もれてしまっている。しかし、プレーした人々の心に今もしっかりと刻み込まれている。そんな真の意味での隠れた名作が、この『ようこそシネマハウスへ』である。
この作品は1994年にPC-9801のアダルトゲームソフトとしてハードというメーカーから発売された。

 ゲームの内容は、親戚の遺産を得た主人公が、作家や脚本家、助監督やカメラマンといった人々と協力して映画を作るいうストーリーである。舞台はどうやら未来らしい世界の“ぱらいそ”という星の街。そこでは映画という一つの文化を介して人々が集まり、皆熱い思いで自分にとっての映画を語る。そんな街だ。

こんな街で主人公は様々な人と出会い、自分だけの映画を作っていく。映画作りのゲームシステムもかなり愉快で、原作と脚本家の選び方、演出の方法で同じ原作がSFになったり、ギャグになったりポルノになったりするのである。

 同じ映画の中で、ちゃんとそれぞれの演出のグラフィックが用意され、様々なアレンジのテキストが用意されているという懲りようだ。
冒頭のプロローグからしてゲームでは珍しい高橋源一郎や村上春樹といったポップ文学の文章を思わせる文体であることからもわかるように、ゲーム内のテキストの秀逸さは、おそらくゲーム史上でも屈指であると言える。

このゲームでは、100人近いキャラクターたちが登場し、彼らはぱらいその各地に自分の生活時間帯に応じて行動する。行きつけの店があり、夜を過ごす店があり、こんなところにと意外なところに出没したりする。
エドワードというキャラクターがいる。彼は当時、公開されていた「シザーハンズ」という映画の主人公を思わせる容姿をしているが、とてもお人好しでいつもポジティブに過ごしている。
そんな彼の台詞は「僕のこの手では君を抱きしめることは出来ない」、「僕の名前はエドワード、なんとかエドワードでも エドワードなんとかでもない ただのエドワード」、短い言葉の中から深い諦念とそれを受け入れてポジティブに生きる彼は、過去に何か彼をそんな風にさせる出来事があった事を感じさせる。

 だが、それが語られることはない。

 とにかくそれぞれのキャラクターたちに語られない人生があり、短い言葉の中にそれに数十倍する思いがある事を感じさせる。
また三人の女優たちとの恋も、王道の恋愛モノからマイ・フェア・レディ的な物語、そして大人の女性との酒と薔薇の日々、などそれぞれがまったく違ったテイストの物語が語られる。
とかく昨今の“感動系”のゲームのシナリオが語り過ぎ、作り込みすぎの印象を受ける中で、今見てみると改めて短い言葉の中で雄弁に語ること、読者に想像させる事の大切さを感じさせてくれる、そんな作品がこの『ようこそシネマハウスへ』なのである。

メインストーリーも秀逸で怒涛の如く物語は別れとぱらいその変貌を迎え、主人公は人々との別れを迎えることになる。そんなラストで前述のエドワードがこんな事を言う。
「こんな世界でも、僕はこの世界が好きなんだ」。

 エドワード、それはこのゲームをプレーした者、すべてが思っている事なんだ。

←同じ原作でこうも違うものになるかと腹を抱えてしまう映画作り。実はかなりキッチュなシステムであるが、それがかえって味になっている。

→登場する人物すべてに人生と人格を感じさせるのは、システムのせいじゃない。ただひとえにその秀逸なテキストが作り出す。言葉の力だ。

続編? 映画監督物語

実は『ようこそシネマハウス』はプレーした人は熱狂的に、その魅力に取り付かれるが、当時の流行の絵柄でもなく、前宣伝が行き届いてなかった事から、営業的には惨憺たるものであったらしい。
しかし、ファンの熱い支持がメーカーに伝わっていたのか、別なメーカーであるKSSからほぼ同じスタッフで『映画監督物語』という作品が作られた。
この作品は60年代から80年代にかけての映画業界を舞台にした作品で、同じように主人公はであった人々と協力をして映画を作り、それぞれの人生を歩んでいくというものだ。映画業界を知る者なら思わずニヤリとするような人物や出来事が登場し、「キネマの天地」的なノリが中々に秀逸な作品ではあった。しかし、この作品もやはり営業的にふるわず、『シネマハウス』のファンですら知らないという作品になっている。
時代は下り、様々な作品がリメイクされているが、今でもファンたちは『シネマハウス』のリメイクを待ち続けている。一人でも多くの人にこの作品に接してもらいたいという願いを込めて。

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