日本が誇るアニメーション文化の精髄 『パプリカ』

2006年の原稿、後方素材まで自力で集めたりしてたのに、ボツというか連絡取れなくなり、原稿料も踏み倒されたレビュー。悔しいので掲載。

日本が誇るアニメーション文化の精髄

『パプリカ』

夢と現実の心地よい酩酊感

日本のアニメが「ジャパニメーション」と呼ばれ、さらにはアニメやコミックやコスプレなどの、いわゆる日本の「オタク文化」が世界各国から熱い注目を浴びている事は、最近さまざまにテレビや雑誌などで特集されているので、ご存知の方も多いだろう。

そんな日本のアニメーション界の中でも、もっとも世界的な注目を浴びている映像作家の一人に今敏(こん・さとし)というアニメーション監督がいる。実際のところ、作品や作家を賞などで評価するのは、無粋の極みかも知れないが、やはり予備知識のない方に紹介するのにもっともわかりやすい指針となるので解説しよう。

今敏氏は1997年、『パーフェクトブルー』で監督デビューを果たし、同作品はベルリン国際映画祭の招待作品ともなっている。次いで2002年に監督した『千年女優』では、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』と共に文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞している。さらに2003年に監督をした『東京ゴッドファーザーズ』では 、先の『千年女優』と共にアカデミー賞長編アニメ賞候補作品に選出され、『ファインディング・ニモ』と競っている。

宮崎駿のような一般的な知名度こそないものの、世界のアニメファンや評論家たちからも熱い視線を浴びる、日本を代表するアニメーション監督なのである。

その今敏監督の最新作となるのが、2006年に封切られた劇場映画『パプリカ』だ。

それが先月5月23日についにDVD化されたので是非紹介させていただきたい。

原作は筒井康隆。小松左京、星新一と並んで「SF御三家」と呼ばれるベテラン作家であり、1993年の高校教科書をきっかけとした「断筆宣言」でご存知の方も多いだろう。それとも最近では同じアニメ映画として話題になった『時をかける少女』の原作者と言った方が通りやすいだろうか?

以前から今敏監督は、この原作『パプリカ』を映像化したいという希望かねてより持っており、原作者筒井康隆との対談の折りに、筒井康隆自身が「今敏監督ならば」と快諾、始動したのがこのアニメーション映画『パプリカ』である。

まさに原作者と監督の理想的なコラボレーションで制作が開始されたこの作品であるが、やはり対談で意気投合したというだけのことはあって、小説の映像化という難しい課題を見事にクリアーしている。まず、原作を読んでいる人にとっても、満足の行く出来となっていると言えるのではないだろうか。

特に原作である小説『パプリカ』は、筒井康隆が、「超虚構」と「精神医学」に傾倒していた頃に書かれた作品であり、テーマは「夢と現実の融合」という実に映像化しにくい作品であったにもかかわらず、これを映像化した監督の手腕に唸らせられる。

よく「他人の夢の話ほど退屈なものはない」と言われるが、誰でも夜眠れば見るものでありながら、いや誰でも見るものであればこそ「夢」は個人的なものであり、その体験を言葉によっても映像によっても共有する事は非常に難しいものである。それをさらにエンターテインメントとして成立させねばならない映画や小説においては、なおさらの事である。

まず特筆しておかねばならないのが、この『パプリカ』は、その「夢」の映像化をアニメーションでしかできない表現を使って、これまでになかったほどに再現しているという事だろう。

まず最初の数分を鑑賞していただきたい。

夢の不条理な感覚、無意味なまでに続くリフレイン、かといって辻褄があっていないわけではない、しかしその辻褄は決して現実にはありえない……。

そんな眠っている時に見る「夢」独特の感覚に思わず視聴者たちは引き込まれ、酔うような不思議な気持ちにさせられる筈だ。

そんな夢からまさに覚醒した時のように畳み掛けて始まるオープニングと物語。

たったこれだけの時間で視聴者たちは、これがどのような映画であるかを理解し、想像世界の中に引き込まれていく筈だ。そう「これは夢と現実の境界を彷徨う映画である」と。

物語の舞台は現代に限りなく近い近未来。DCミニという「夢を共有する」機械を使って、夢の中に入って精神疾患などを治療する、謎の美女サイコセラピスト「パプリカ」が主人公である。これはオープニングですぐに明らかになるのだが、「パプリカ」の正体はDCミニの研究者の一人である千葉敦子。とはいえ、彼女と「パプリカ」もほとんど別人格といってよいほど容姿も性格も違っており、主人公である「パプリカ」と千葉敦子自体が「夢と現実」を行き来する象徴ともなっている。

ところがこのDCミニは、まだ実験段階にあり一歩使い間違えれば、夢と現実の区別がつかなくなり、悪用すれば狂気から精神の崩壊、ひいては死をも招きかねない恐ろしい代物だったのである。

それが研究所から盗まれ、研究員をはじめとする人々が悪い意味での「夢の世界」へと取り込まれ、次々と精神を崩壊させていくところから、物語は佳境へと入っていく。

ここから先は「見てのお楽しみ」であるが、映像作家としての今敏監督の面目躍如と言わんばかりに、素晴らしい映像美を「夢と現実」を彷徨う「パプリカ」と共に見せてくれる。

次々となんの脈絡もなしに移り変わる不条理な夢を映像として見せられながら、映像としての一貫性は決して損なわれないため、不条理な映像でありながら、何故か納得しながら見続けてしまう夢の描写は、アニメーションという映像表現の自由さ、可能性を存分に見せつけ、視聴者を魅了するだろう。

さらに不条理に見えていた全ての「夢」が、主人公や脇役たちのキャラクターの人格やトラウマなどから生み出されている事が、物語が進んで行くうちに明らかになっていくカタルシスは、まるで極上のミステリーを読んでいる気分にさせられるに違いない。

「ああ、あの夢はこのキャラクターのこのトラウマから来ているのか」、「この夢のリフレインにはこういう理由があったのか」と、実に細かい部分まで描写されている。確かに音楽も映像も劇場で観た方が迫力はあるのだが、何度も繰り返し観たり巻き戻しなどができるDVDならではの楽しみとして、そういった細かい描写を探して見るという楽しみ方もある。本当に映像の隅々まで、様々な伏線やキャラクターや世界の描写が明示なり暗示なりされている事に気がつく筈だ。

また、映像とともに音楽についても語っておきたい。

この『パプリカ』の音楽を担当しているのが、元P-MODELのリーダー兼ボーカリスト平沢進だ。かつてはテクノ・ミュージックの旗手の一人として活躍した彼の音楽は、東洋でも西洋でも、過去でも未来でもない、世界観を美しく表現しており、「夢」の世界を彩っている。特に音と映像によって夢と現実を飛び回る『パプリカ』オープニングは、そのまま極上かつ最新のテクノ・ミュージックのPVとして通用するものと断言してもよい完成度の高さを誇っている。

もちろん本編の中も夢の不条理感、悪夢の恐怖心などを音楽によって演出しており、今敏監督の映像美と共に「夢」そのものを演出する重要なバイプレイヤーとして活躍している。

言ってしまうと、二度目の鑑賞からは物語すら追わずに、映像と音楽のコラボレーションによる「夢」の世界を堪能する、という鑑賞法さえ、オススメできてしまうというほどだ。

「夢」という、多くの映像作家が挑戦しつつも苦戦させられる素材に挑戦し、それをアニメーションという手法を使って見事なまでに完成させた映画『パプリカ』は、単なるアニメ映画作品という範疇ではなく、間違いなく2006年の日本を代表する映像作品の一つであると言えるだろう。

「アニメーション」という偏見に囚われずに、是非ともDVDによって鑑賞してもらいたい。

貴方もきっと「夢と現実」を行き来する快楽に心地よく酔う事ができるはずだ。

●作品タイトル:『パプリカ』

●価格:¥4,980

●発売・販売:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

監督: 今敏

原作:筒井康隆

音楽:平沢進

アニメーション制作:マッドハウス

製作:パプリカ製作委員会 (マッドハウス, ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)

配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント

出演: 林原めぐみ, 古谷徹, 江守徹

63回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門出品作品

19回東京国際映画祭 animacs TIFF 2006 x digital TIFF 共同オープニング作品

コピーライト

© 2006 MADHOUSE / SONY PICTURES ENTERTAINMENT (JAPAN) INC.

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