疾駆するハイテンションの饒舌 『このはちゃれんじ』

疾駆するハイテンションの饒舌
このはちゃれんじ

ある日突然、自分が本物の自分ではなく、ぱちもんと断言されてしまう、世にも哀れなヒロイン登場。
疾走する饒舌とハイテンションのシナリオに驚け。

 朝起きたら、兄に自分は本当の妹ではなく、錬金術によって作られたホムンクルス(人造人間)でよりによって自分を作り出したのが、実は錬金術師でマッドな本性丸出しの兄であった……、という事を知らされたらどうしますか? (答・どうにもなりません)
そんなオープニングで始まる、『このはちゃれんじ』は、2001年末に発売され、年末の新作ラッシュに飲み込まれてしまったせいか、あまり話題にならないまま終わってしまった作品だ。
しかし、シナリオ、ストーリー、キャラクターともに、一級品のノリを有しており、もうちょい知名度や評価が高くてもよかったのではないか? と不憫になってくる逸品である。
主人公の乙丸このはは、いきなり兄であるマッド錬金術師貴英に「実は本当の妹ではなく、ホムンクルスでパチモン」と断言され、あまつさえその人造人間として生きる原動力は人のエッチなエネルギーを媒介にするオルゴンエネルギーだと言われてしまう。

 おかげで、このはは毎日自分を慰めては、オルゴンエネルギーを意地しているという始末。
そんなこのはを中心として、さまざまな(変な)人々が現れ大騒ぎ! といった、軽いライトタッチのストーリーである。
とにかく、この『このはちゃれんじ』はすべてのキャラクターや彼らが織り成す言葉の数々が生き生きといているという点では、最近発売された美少女ゲームの中でも屈指のものがある。
ホムンクルスで、いつも主に兄から向けられる理不尽な境遇に悩まされながらも、明るく日々を過ごしていく主人公の乙丸このは。
その兄にして諸悪の根源、普段はどう見てもできのよい頼りになる格好兄ぶりを見せるのに、その本性はマッドアルケミスト丸出し、かつ自分の趣味嗜好にあくまで忠実な兄、乙丸貴英。
兄弟の幼馴染で、江戸っ子なべらんめえ口調で、毒舌と皮肉をたたきつけまくる学園の女帝にして大金持ちのお嬢様日御子菜苗。
過去貴英に何度も煮え湯を飲まされ続けてきた錬金術師としてのライバル道法寺織人と彼にかしづく、天然ぽややんな不思議メイドの苑生。
どのキャラクターも実に立っていて、彼らのやりとりは、こんな感じだ。
このは「『貧乳』じゃなくて『微乳』! 『貧しい』と『微か』じゃ言葉としての美しさが違くて『微乳』は儚さとかワビサビとかそういった日本的情緒の流れを汲んでるので、訂正しないと出るトコ出るぞー! もー!」

貴英「ふふ、このは、中世において錬金術は、最先端の科学として医療の現場などで重んじられていた。つまり僕ら錬金術師はそんな科学の子ってわけだから、全然大丈夫だよ?」
このは「間違いだらけの自信に満ちてる!?」
どうも必要以上に饒舌にまくし立てる傾向のあるハイテンションなノリは、明らかに独得の文体を形成しており、心地よくプレイヤーをノセてくれる。
そんなライトタッチのシナリオではあるが、妹の分身としてのこのはを作り出した貴英は実は妹である本来のこのはに対して、複雑な愛情を抱いていたり。
菜苗は奈苗で幼馴染の乙丸兄妹に対して、どこか皮肉と毒舌でからかいながらも、さりげないおしつけがましさという不思議な接し方で見守り続けている。
一見、メイドである造物主として、苑生にかしづかれている織人は、実は苑生にメロメロで、エロゲでは珍しいヘタレ美形キャラとしてどんどん情けない姿を見せつつも、純愛を貫いていく。
そんな誰もがお互いを大切にしながらも、それぞれがそれぞれに一筋縄で行かない部分を持ち合わせているせいで、どこか歯車が狂っていき、葛藤していく。そんな感情の動きを、決して感動の押し付けにならず、ギャグタッチな部分を散りばめつつ大団円に持って行く。そんなシナリオ構成は、実に爽やかなプレー後感を与えてくれるだろう。
シナリオはマルチエンディングであるが、主人公が女の子であるために、男が主人公のときのようにいろんな男からよりどりみどりといった分岐の仕方をせずに、それぞれ工夫の効いた分岐とエンディングを見せてくれるあたりも、シナリオライターの苦心の跡と職人芸が伺える。
最後に、あー面白かった。あーよかったなー。と素直に言える。そんな佳作がこの『このはちゃれんじ』なのである。

↑ときおり挿入されるギャグタッチの絵もシナリオの雰囲気にあっていて、作品のノリを助長させてくれる。

↑実に丸っこくて、確かに今の流行ではないかもしれないが、この絵だからこそいいというシナリオになっている。

シナリオライターに注目?

『このはちゃれんじ』のシナリオライター荒川工氏は『Lien』でも、その饒舌体とも言うべき独特の文体とストーリーテリングで、今かなり注目しているシナリオライターの一人である。
氏はハイテンションでギャグタッチの言葉のやりとりを得意としているようだが、一見、ノリがよいだけに見える、言葉のやりとりは、どこか人に優しく互いに対する気遣いの窺い知れる、そんな暖かさに満ちている。交わされる毒舌や皮肉にしても、例えるならば悪友同士の一見悪口にしか聞こえないやりとりであるが、二人は十分に通じ合っている機微というようなねそんな思いやりが感じられるのだ。
今主流の葉鍵系のどこか内向的な傾向のある言葉に対して、外向きのそんな饒舌。それでいて決して軽いだけじゃない言葉の使い手として、今後要チェックのシナリオライターであると付記しておきたい。まだ未プレーだが、すでに発売されている『ぼくがここにいるふしぎ』も注目したい。

スポンサーリンク