ベネズエラ化した『黒い砂漠』~MMORPGの本質とは~

とどのつまりMMORPGの本質は、擬似的な経済活動であると言ってもいい。

狩りもPVPも生産も取引もすべては、MMORPGが一つの経済圏として成り立っているから成立するものであり、擬似的な経済活動であるからこそみんな熱中するし、時にはシャレにならないような事件も発生する。

多くのMMORPGの製作者や運営が勘違いしているところに、MMORPGはオフラインのRPGの延長線上にあるゲームではないという事が挙げられる。

本質的にMMORPGは「経済圏を共有するゲーム」であって、オフラインRPGとはまったくゲームの本質が異なっているのだ。

それがわからないで大失敗している例として『Fallout76』が挙げられるが、これはベゼスダがMMORPGの本質が経済圏の確立であるという事がわからないままFalloutの世界観をMMORPGにしてしまい、そのせいでMMORPGなのかサバイバルアクションなのかよくわからないことになっている。

とどのつまりMMORPGはオフラインRPGでもっとも大切とされている世界観やゲームバランスはどうでもいいのだ。

大事なのはゲーム内の経済圏をうまく循環させることであり、ゲームバランスが崩壊していても、職業間の強さが狂っていても、ゲーム内の経済圏さえ循環していれば、そうそうゲームそのものは崩壊しないのである。

狩りをするのも生産をするのも取引をするのも、ゲーム内経済圏さえ循環していれば、プレイヤーはその見返りを得られるわけだから、いかにゲームバランスが狂っていてもモチベーションは保てるのである。

そういう意味では、基本的にMMORPGの経済圏は、生み出されるゲーム内通貨のせいでインフレ化するのが当然であり、それが頂点に達したときがほぼゲームがエントロピーの頂点のような熱的死のような終わり方をするというわけである。

そのためにMMORPGの製作者たちは、うまくゲーム内通貨をNPCに吸い上げさせてゲーム内通貨のインフレーションを緩和する仕組みが必要なのだが、これがうまく機能しているMMORPGはほとんどないと言っても良い。

実はこの点で唯一自覚的にゲームマスターが行っていたのがROのエミュ鯖であるExile鯖だったのだが、今は崩壊してしまって存在しない。あそこの経済は曲がりなりにも経済圏の循環を意識していたゲームマスターで優秀だったと思う。

一方、それとは違うやり方でMMORPGでは避けられないインフレーションを制御していたのが『黒い砂漠』であった。

『黒い砂漠』では一切のプレイヤー間の取引が禁止され、プレイヤーは取引所を介してアイテムなどの取引を行っており、その取引所も価格の上限が設定されて決して無限に物価が上がって果てしないゲーム内通貨の生産によるインフレーションを、「プレイヤーが自由にできる相場」を制御することによって抑制していたのであった。

はっきりいうと『黒い砂漠』は、ゲームシステムとしては職業間のバランスやPVPはほぼ崩壊しきっているし、狩りは単調、生産放置は当たり前というゲームであったのだが、唯一その「取引所による経済統制」によってなんとか経済の循環を保っていたという点で評価できるMMORPGであったのだ……。

おそらく、この統制経済は開発当初から「MMORPGは際限なく経済がインフレ化する」という事実に自覚的であったのと、botやマクロ防止のためのシステムであったのだろう。

そして、それは今までうまく循環していたし、私はこの点で『黒い砂漠』をとても評価していたのである。

ところが、運営が今のプロデューサーになってから、いろいろPVPバランスの変更やサバイバルゲームの導入など迷走していたが、とうとうこの「取引所による統制経済」に手を付けててしまったのである。

しかも最悪の形で。

新しい『統合取引所』というシステムは、なんとアイテムの値段が「徐々に相場の予約状況に合わせて上下していく」というシステムだ。

これが最悪なのである。

いっそ、完全に青天井相場にしてしまえば、最終的には他のゲームのように「際限なきインフレーションによる熱的死」は遂げるであろうが、それでもアダム・スミスのいう「神の見えざる手」による相場と流通の循環ができただろう。

ところが、今度の取引所は「予約状況に合わせて徐々に相場が上がる」というまだるっこしいシステムのために、誰もが「当分アイテムを売るのは損だ」という事が明らかになってしまっているのである。

このため、プレイヤーたちがほしいアイテムはよほどのことがない限り取引所に出ることはなく、流通がほぼ死んでしまった。

当たり前だ、「みんなが欲しがるアイテムを今売るのは損」だというのがわかっているのに、誰が在庫を売り出すだろう?

お陰様で『黒い砂漠』は見事なぐらいみんなが欲しがるアクセサリーやアイテムなどが市場に出なくなり、ベネズエラのような流通崩壊によるハイパーインフレ的なゲーム内通貨の価値崩壊が起こってしまっているのである。

ゲーム内通貨であるシルバーをいくら持っていてもアイテムの流通が死んでいるのだから、狩りに行くモチベーションもわかない。

それどころか、アクセサリーなどは自給自足で強化していかねばならず、その徒労感といったらない。

わりと真面目に流通が死んだせいで、経済の循環が止まり、ゲームプレイヤーたちのモチベーションが崩壊しかかっている状況である。

たった一点、『統合取引所』という馬鹿げた新システムを取り入れたせいで、一晩にしてプレイヤーたちのモチベーションが根こそぎ奪われたのだからすごい。

つくづく、MMORPGの本質とは「ゲーム内経済の循環」にあるという事が身にしみた出来事であった。

ちなみにMMORPGの本質が経済圏の循環である以上、よほど上手い経済圏の循環を構築しない限り、実経済とリンクしているソシャゲにかなわないのも当然だったりする。

MMORPGを復権させるには、よきゲームバランスでも、美しいグラフィックでも、わくわくする世界観でもないのだ。

重要なのは「上手な経済圏の構築と循環」なのである。

ゲーム開発者はこの部分についてもっと自覚的にMMORPGを制作してほしいものだと常々思っている。

そうすればまだまだMMORPGのニーズはあると思うのだ……。

あーあ……黒い砂漠復帰したかったのに……(´・ω・`)

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